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フリマチック・パーク
星井願太郎のブログ小説
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フリマチック・パーク
2008年01月24日
第2回「お昼のフリマチック・パークへ」
>>前回の話を読む
13時10分、嬉色は起きた。
嬉色は、前の日のことを無理に思い出そうとしたりはしない。それが無駄な努力になるとわかっているし、思い出せたところで、いいことがあるわけがない。
だから机の上にあったトマトを、何の躊躇もなくゴミ箱に捨てた。そしてゴミ箱行きの夜を過ごした後の朝は必ず、満面の笑みを浮かべて、
「おはよう、ハニー」
猫のハニーに挨拶することにしている。
窓辺で、ちらと嬉色の方を向いたハニーは、すぐに毛づくろいの仕事に戻った。そんなハニーに日光浴をさせてあげようと、嬉色は窓辺に近づき、カーテンを開いた。
まぶしい日差しが部屋を満たしていく。
今日は土曜日だ。
腰に両手を当てて、背筋を伸ばす。
嬉色は、東京都の最南端、大田区にあるマンションの5階に住んでいた。家賃6万9千円の1DK。雑種の猫と26歳の女性1人が住むには、ちょうどいい広さだった。
部屋の窓からは公園が見えている。
マンションと隣接しているこの公園は、「羽穂(うほ)公園」といった。だが嬉色は読み方がわからず、はねほ公園だと今も思い込んでいる。
羽穂公園の敷地は広くて、テニスコートや交通広場、噴水もあった。公園の入り口は嬉色の住むマンションに近い。その入り口から公園に入ると、右と左の道に分かれる。左に行くと噴水広場だ。右には道が続いていて、その道沿いにはたくさんのシートが敷かれている。シートの上には人が座っていた。
その道の真ん中を、たくさんの人が通り過ぎていく。たくさんといっても、公園にしてはたくさんという程度。プロのサッカー選手なら、誰にもぶつからず、ジグザグに全力ダッシュで駆け抜けられる程度だ。
そんな公園を、嬉色は見下ろしている。
背筋を伸ばしたまま、彼女はほがらかにつぶやいた。
「ぶっ殺してやる」
ハニーも「ブニャー」と鳴いて同意する。
そのブサイク鳴き声を聞いて、嬉色は少し元気が出てきた。せっかくの休み、なんだか外に出て行きたい気分だった。幸い、服は着ている。今すぐにでも出られるだろう。
そう嬉色は確信した。
窓際から玄関まで、足を止めたのは、猫の餌皿の前でだけだった。皿にはカリカリ(乾燥キャットフード)が10粒ほどしか残っていなかった。嬉色は皿に、新たなカリカリを存分に補給してやった。
さらさらのショートヘアが自慢の嬉色は、手ぐしで簡単に寝癖を直す。
愛用のスニーカーを無造作に履いて、後ろをちょいと向いた。ハニーがついてきていないのを確かめる。ドアが開くのを狙って、ハニーはすうっと外へ出てしまうことがある。
そして嬉色はドアを開け、外に出た。とりあえずの行き先は決まっている。嬉色のマンションのすぐ前に広がる羽穂公園。
通称「フリマチック・パーク」だ。
羽穂(うほ)公園を入ってすぐ右の道。両脇の高い木の上の方には、横断幕が掲げられている。木と木の間は5メートルほどもあり、大掛かりな横断幕だった。
そこには、こう書かれている。
「フリマチック・パーク in 羽穂公園 フリマ開催!」
フリマチック・パークの文字が大きく赤で書かれ、その後に続く文言は小さく黒で書かれている。嬉色はいつもこの横断幕を見るたび、うれしくなる。公園の中に公園があって、フリマ開催である。「フリマ開催! in 羽穂公園」だけで良さそうなものだ。フリマチック・パークって何だ。その中途半端なバカバカしさが良かった。
この羽穂公園では週に1回、フリーマーケットが開催されている。こんなにコンスタントにフリマを開催している公園はそうない。フリマチック・パークと勝手に名前を付けるのも、あながち理由のないことではなかった。
横断幕は、開催日以外でも取り付けられたままだ。だからカタカナを読める子供は「羽穂公園」よりも「フリマチック・パーク」という名前でここを呼ぶ。
今日も道の両脇にはレジャーシートを広げて、いろんな物を売っている人たちがいる。
洋服が一番多いが、場所柄、あまり若い子はいない。おばちゃん服が大量大売出し中だった。子供のおもちゃ、マンガ本のセット、粗品のタオル、小さなダンボールに雑然と入れられたCD。食器のセット、ジャンクなノートパソコン……。
嬉色はそれらになんとなく目を走らせながら、春の陽気を楽しんでいた。財布も持ってきていないので、買い物もできない。どのみちガラクタを買うのは嫌だった。
ただ、見ているだけなら楽しい。
道を少し行くと、小さな広場に出る。広場からはまた道が二手に分かれているのだけれど、ここがフリマのメイン会場ともいえる場所だった。広場の中央付近にもシートが陣取られているため、フリマの客は、ぐるりと一周することができる。
嬉色があと10歩ほどでその広場に入ろうというとき、唐突に脇から大声があがった。
「おい、そこの君!」
反射的に嬉色はその場に立ち止まり、横を向いた。まるで時代劇で聞くような、底の深い、低い男の声がした方向を。
見ると、趣味の悪い白いコートを着た大きな男が、レジャーシートの上ですっくと立っていた。コート同様、顔も白人のように白い。鼻が大きくて、眉毛が限りなく薄い。
頭はハゲている。見事なスキンヘッドだった。
嬉色はその男を、明らかにヤクザだと思ったし、スーパーマンに出てくるレックス・ルーサーかとも思った。
「そう、君だよ、ハニー」
レックスは手招きした。
こんな男にハニー呼ばわりされる覚えはない。嬉色は首を回し、人違いであることを期待して視線を縦横無尽に走らせた。
が、無駄なことだった。
レックスはレジャーシートをまたぐと嬉色へ近づき、あろうことか両肩をその手でひっつかんだのだ。そのままレックスに顔面をぐっと突きつけられて、思わず嬉色はのけぞった。レックスが肩をつかんでいなければ、後ろに倒れていたほどに。
のけぞった嬉色の目を、レックスはギロリとにらみつけた。
「お願いがある。店番だ。店番をしてくれ。いいか、ここに座って、売るだけでいい。そうだな、1,000円までならまけてもいい。それ以上はだめだ。絶対だめだ。わかったか?」
わかった? 何が? 嬉色は頭が混乱し過ぎて、つい聞いてみた。
「2,000円はだめってことですね」
「違う!」
「……」
「1,010円でもだめだ! あげる分にはいい!」
「あげる?」
「そうだ、あげあげだ! とにかくすぐ戻るから、ここにいて店番をしてくれ」
そう言うと、レックスは颯爽と立ち去った。プロのサッカー選手のようにスイスイと道を駆け抜けるわけにはいかず、他の人の体にぶつけながら、公園の入り口へドタドタと駆けていく。ぶつかるたび「すまんな」「すまんな」と声をかけていた。
嬉色は、その後ろ姿をしばし眺めていた。
彼の立ち去った後には、無人の大きなレジャーシートが残されている。上にはなんだか得体の知れないガラクタが大量に置いてあった。
「あげあげ?」
嬉色は、そうつぶやくのがやっとだった。
>>第3回「ゴクミ男と銃声」へ続く
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コメント
どんな展開になるのか想像がつかないですねー。
次回楽しみにしてます!
yuu
2008/01/29 14:52
早速読んでいただいたようで、ありがとうございます。なにぶん、こっそりやっているもので。
次回、なんとか想像してみます。
次回はおそらく5日後あたりかと。本職での執筆が忙しいので、どうしても不定期になってしまいます。
連載以外でも、なんらかの形で更新できるようにはしようと思っております。
星井願太郎
2008/01/30 00:40
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早速読んでいただいた…
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どんな展開になるのか…
yuu 01/29 14:52
ありがとうございます…
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公式ブログ開設おめで…
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次回、なんとか想像してみます。
次回はおそらく5日後あたりかと。本職での執筆が忙しいので、どうしても不定期になってしまいます。
連載以外でも、なんらかの形で更新できるようにはしようと思っております。